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地球ディッシュカバリー【第5回?後編】文学を通して知るキューバ ゲスト:久野量一教授

研究室を訪ねてみよう!

タイトルバナー

お笑いコンビ?ママタルトさんをパーソナリティに迎え、世界の食文化を入り口に、地域の社会や文化を掘り下げるポッドキャスト「ママタルトの地球ディッシュカバリー ?東京外大の先生と一緒?」が始まりました。教員の専門領域を、料理や言語といった身近なテーマを通してひもときながら、地域の魅力や国際的なつながりを多角的に紹介していきます。

今回のゲストは、東京外国語大学大学院総合国際学研究院の久野量一教授。下北沢にあるキューバ料理店「ボデギータ」を舞台に、キューバの歴史、文化、そして文学の魅力について、美味しい料理とともに語り合いました。野球強国として知られるキューバですが、その背後には豊かな文学の伝統と複雑な社会背景があります。久野教授の研究と現地での経験を通して、私たちがまだ知らないキューバの姿に迫ります

※本記事は後編です。


ゲスト: 久野量一 教授

1967年東京都生まれ。東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。言語文化学部副学部長、東京外国語大学出版会の編集長も務める。キューバをはじめとしたラテンアメリカ文学を専門とします。1992年に初めてキューバを訪れて以来、何度も現地を訪問し、キューバをはじめとしたラテンアメリカ文学の研究と翻訳に取り組んでいます。研究者情報

パーソナリティ: ママタルト 檜原洋平さん、大鶴肥満さん

\ぜひ耳で味わってみてください!/?

「ママタルトの地球ディッシュカバリー?東京外大の先生と一緒?」

ポッドキャストでは、ママタルトさんの軽快なトークと笑いに包まれながら、星教授の深くて面白いお話がたっぷり詰まった“知的エンタメ”なひとときが味わえます。チベットってどんなところ?…そんな疑問も、聞けばきっと「もっと知りたい!」に変わるはず。 聞けば世界がちょっと広がる、楽しくてためになるひととき。ぜひポッドキャストでお楽しみください!

キューバ文学と魅力

────次の料理が運ばれてきました。

こちらは「ピカディージョ」と呼ばれる料理です。牛肉とトマトを煮込んだ料理で、家庭料理としてもよく食べられています。それと「ロパ?ビエハ」です。牛肉を細かく裂いて調理した料理で、広げると古着のように見えることからスペイン語で「古着」を意味する名前が付けられています。トマトソースをベースに、「モホ?ソース」や「ソフリート」といった調味料で仕上げます。

「ピカディージョ」(左)と「ロパ?ビエハ」(右)

こちらは「アロス?コングリ」と言い、黒豆の炊き込みご飯で、キューバでもっともポピュラーな料理のひとつです。

アロス?コングリ。キューバでは赤いんげん豆を使うこともある

そして、2杯目のお酒は「カンチャンチャラ」と言って、ラム酒をソーダで割り、ライムと蜂蜜を加えたカクテルです。爽やかさと甘みが特徴です。

カンチャンチャラ

────米国との関係が、現在のキューバ経済にどのような影響を与えているのでしょうか。

現在のキューバ経済は非常に厳しい状況です。コロナ禍で観光客が減少し、アメリカからの経済封鎖も続いています。国民には「配給手帳」が配られていますが、以前に比べて配給される品目は減少しています。例えば、以前は多様な食料品が配給されていましたが、現在は米や砂糖、フルーツなど限られた品目のみです。国民は配給だけでは生活できないため、民泊経営や個人レストランなどの副業で収入を得ようとする人がたくさんいます。

キューハ?の配給手帳。2023年9月と10月のもの

────先生が惹かれたキューバ文学の魅力について、具体的に教えていただけますか。

キューバ文学の魅力のひとつは、大胆で実験的な文体です。例えば、レイナルド?アレナス(Reynaldo Arenas Fuentes、1943-1990年、キューバ出身の小説家?詩人)の『めくるめく世界』という小説は、メキシコの修道士の波乱万丈な生涯を題材にした幻想的な小説ですが、「私たちはぞうげやし畑から戻ってくる。いや、私たちはぞうげやし畑から戻ってこない」という一文から始まります。1960年代の作品ながら非常に斬新で、冒頭から一気に読者を物語へ引き込む力があります。

キューハ?作家レオナルト??ハ?ト?ゥーラと

────そうした魅力あるキューバ文学の中で、先生が翻訳された作品についても教えていただけますか。

私はキューバ出身の作家カルラ?スアレスの小説『ハバナ零年』(原題:Habana a?o cero)を翻訳しました。舞台は1993年の経済危機下のハバナで、電話の発明者は「ベル」ではなく、実はハバナでイタリア人が発明したのではないか、という仮説を探る物語です。当時のハバナは物資不足に直面しており、自転車で移動する人々や食料品の配給など、厳しい生活状況が描かれています。翻訳作業では、物語の途中で主人公の年齢や性格が明らかになるにつれ、訳文を修正する必要があり苦労しました。?

キューハ?の研究者や作家と

────キューバにおける出版の仕組みや現状についてはどのようになっているのでしょうか。

キューバでは、文学賞を受賞すると出版される仕組みがありますが、実際に本が出るまでには長い時間がかかります。ハバナのブックフェアで受賞が発表されても、出版まで数年待たされることも珍しくありません。2023年に訪れた書店では本の数が極端に少なく、物資不足の影響が顕著でした。2000年代前半には古本屋で貴重な本を見つけることもできましたが、現在ではそうした機会も減っています。

キューハ?の文学研究者と
2023年ハハ?ナの本屋。本か?ほとんと?ない

キューバの人々と文化、そして日本とのつながり

────食後にコーヒーとデザートが届きました。先生、こちらのデザートは何でできているのでしょうか。

こちらのデザートは「グアヤバ?コンケソ」と言って、チーズの上に果物のグアバの羊羹が載っています。

グアヤバ?コン?ケソ
ハハ?ナの市場。テ?サ?ートのク?アヤハ??コン?ケソの元のク?アハ?

こちらのコーヒーは、キューバの豆で挽いたコーヒーです。最近はキューバのコーヒー豆はなかなか手に入らないのですが、オーナーの清野史郎さんが特別に用意してくださいました。キューバでは、モカポット(直火式エスプレッソメーカー)でコーヒーを淹れるのが一般的です。私の知るハバナの人は、朝にたっぷりコーヒーを作り、砂糖を惜しみなく入れて非常に甘くして飲んでいました。

キューバコーヒー

────キューバの人々の性格や特徴については、どのように感じられますか。 ?

物資不足や生活の不便さがあっても、キューバの人々はオープンで温かい性格の方が多いです。民泊で滞在した際、家族が旅行に出かけるときに「鍵はこれだから」と家を任せてくれるなど、信頼と助け合いの文化が根付いています。また、自虐的なユーモアのセンスも特徴的です。例えば「キューバの動物園には世界で唯一、ベジタリアンのライオンがいる」というジョークがあります。これは肉不足を皮肉ったものですが、厳しい状況だからこその笑いですね。

────人々の暮らしを体感できる旅行先として、先生のおすすめはありますか。

ハバナの街、特に海岸通りがおすすめです。スペイン植民地時代の建築物、アメリカ資本による豪華なホテル、革命後にソ連の技術で建てられた公共建築物など、さまざまな時代の建物が混在しています。街を歩くと建物にプレートがあり、「ここに誰々が住んでいました」といった歴史を感じることができます。観光に適した時期は11月から3月頃で、ハリケーンもなく気温も過ごしやすいです。 ?

────文化面では、印象的なキューバ映画にはどのような作品がありますか。

『苺とチョコレート』(原題:Fresa y Chocolate、キューバ?メキシコ?スペイン合作映画)という同名の小説を原作にした映画があります。1990年代に制作された作品で、田舎から来た真面目な大学生と芸術家の交流を描いています。芸術家は社会主義体制に批判的な考えを持ち、大学生は最初は彼を監視するよう命じられますが、次第に友情が芽生えていく物語です。キューバ社会や文化、思想の対立を描いた興味深い作品です。 ?

ボデギータのオーナー?清野史郎さん

────最後に、キューバ文学の研究を通して先生が伝えたいことは何でしょうか。 ?

キューバは非常に特別な歴史的経験をしてきた国です。スペインの植民地から独立し、アメリカの影響下に置かれ、革命を経て社会主義国となり、さらにソ連崩壊後の経済危機、そして現在の困難な状況まで、数々の変遷を経験してきました。インターネットもなく、グローバル企業も存在しない環境の中で、他国が歩まなかった独自の道を進んできたのです。そうしたキューバの特別な経験を私たちはしっかり受け止め、伝えていく必要があります。キューバが背負ってきた歴史を忘れないこと、それが大切だと考えています。 ?

左から、檜原さん、清野さん、久野教授、肥満さん

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学びを広げるリンク集

訪れたお店の紹介

キューバ料理

ボデギータ(Bodeguita)

東京都世田谷区代沢5丁目6?14 前田ビル B1(小田急線?京王井の頭線「下北沢」駅より徒歩8分)

http://bodeguita.web.fc2.com/

本の表紙画像

『地球の音楽』

東京外国語大学の世界各地?各ジャンルの 50名の専門家?研究者らが奏でる珠玉の音楽エッセイ集。
音楽は音楽は、その場所で個別に奏でられ、地球上で大気が流れていくように移動し、ほかの音楽と混じり合い、それぞれの場所で異なる音楽が鳴りわたりながら、地球全体が壮大な音楽を響かせている――。東京外国語大学の研究者たちが、それぞれの場所に固有の音楽の姿を、写真と文章で紡ぐ。世界の音楽エッセイを一冊に!

『地球の音楽 』 山口裕之?橋本雄一【編】

音楽?文化?地域研究
版?頁:A5判?並製?292頁 
ISBN:978-4-904575-97-0 C0095
出版年月:2022年3月31日発売
本体価格:1800円(税抜)
https://wp.tufs.ac.jp/tufspress/books/book75/

本の表紙画像

『地球の文学』

世界各地?各ジャンルの文学×地域研究の専門家による26篇が収められたエッセイ集。
東京外国語大学発、地域研究者たちとめぐる文学の旅。
『地球の文学』では、「翻訳」「モダニズム」「詩」「政治」「歴史」という大きな主題の枠組みによって、さまざまな言語圏の文学をめぐるエッセイがまとめられている。(…)ゆるやかな主題ごとに集められたさまざまな地域?言語圏のエッセイは、どのような順序で読んでいただくこともできる。それらのエッセイが互いに交錯し合いながらモザイク的なイメージの総体となり、全体として「地球の文学」が鳴り響くかのように感じとっていただけるものになればと願っている。(本書「まえがき」より)

『地球の文学』山口裕之【編】

文学?地域研究
版?頁:A5判?並製?296頁 
ISBN:978-4-910635-17-0 C0098
出版年月:2025年3月31日発売
本体価格:2000円(税抜)
https://wp.tufs.ac.jp/tufspress/books/book91/

世界を食べよう!―東京外国語大学の世界料理―

食を通じて文化を知る――そんな体験をもっと広げたい方には、東京外国語大学出版会の『世界を食べよう!―東京外国語大学の世界料理―』がぴったりです。料理から見える世界の多様性を、ぜひ味わってみてください。

世界を食べよう!―東京外国語大学の世界料理― 沼野恭子【編】

ジャンル:食文化?料理?地域研究
版?貢:A5判?並製?224頁 
ISBN:978-4-904575-49-9 C0095
出版年月:2015年10月30日発売
本体価格:1800円(税抜)

https://wp.tufs.ac.jp/tufspress/books/book39/

東京外国語大学オープンアカデミー

「もっとチベット語を知りたい!」と思った方には、東京外国語大学オープンアカデミーのチベット語講座がおすすめです。言葉を学びながら、チベットの文化や人々の魅力に触れてみませんか? 年に2回の募集期間を設けているため、自分のペースで学び始めることが可能です。さらに、オンラインでの開講により、全国や全世界どこからでも気軽に参加できるのも大きな魅力です。新しい言語を学び、異文化交流の扉を開く絶好のチャンスです。チベット語を学びながら、未知の世界への一歩を踏み出してみませんか?

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本記事に関するお問い合わせ先

東京外国語大学 広報?社会連携課

koho[at]tufs.ac.jp([at]を@に変えて送信ください)

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